8月、キャンプ好きの人にとって、“たまらない一品”が登場したことをご存じだろうか。岩谷産業の「カセットフー タフまるJr.」(イワタニアイコレクトで9878円、税込)である。

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 SNSを見ても、「このサイズが欲しかった」「キャンプで炭を起こす必要なし」「男前すぎる」といったコメントであふれている。ネット上でざわざわしているわけだが、実際にどのくらい売れているのだろうか。年間の販売目標は5万台としているが、同社の担当者によると「2倍のペースで売れている。半年で5万台突破は確実」とのこと。

 「タフまるJr.」というネーミングからも想像できるように、実は“親”にあたる商品が存在している。名前は「タフまる」で、2018年2月に販売したところ、売れに売れた。「風が少々強くても、炎が消えにくい」ことをウリにしていて、アウトドアを楽しむ人を中心に支持を得ているようだ。そして、親のサイズから60%ほど小さくした“子ども”が産声をあげたのだ。

 ……と、ここまで書いていて、気になったことがある。「コンパクトにしただけで、売れたのか?」である。岩谷産業の商品ラインアップを見ると、同じようなサイズカセットコンロが存在している。しかし、その商品はそれほど話題になっていなくて、飛ぶようには売れていない。にもかかわらず、なぜタフまるJr.はすぐに火が付いたのか。その理由について、カートリッジガス本部の多田剛部長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。

●機能面で3つの特徴

土肥: タフまるJr.の売れ行きが好調のようですね。パッと見て、「ちっちゃいなあ」と感じるのですが、機能面の特徴は3つありますよね。1つめは、空気は通しても風は通さない「ダブル風防ユニット」と、火足が短い「多孔式バーナー」を搭載しているので、風の影響で炎が消えにくいこと。2つめは、コンパクトサイズにもかかわらず、火力が1時間あたり2000キロカロリーもあること。ちなみに、同じくらいのサイズの場合、1600~1800キロカロリーが多いようで。3つめは、10キロの重さに耐えることができるので、8インチまでのダッチオーブンでも使えること。

 機能面だけでなく、デザインや色などを見ると、「キャンプに使えそうだなあ」という印象を受けるのですが、どのようなきっかけで、このような商品をつくることになったのでしょうか?

多田: グランピングが2015年ごろから流行りだして、18年ごろからはソロキャンプが話題になりました。タフまるjr.の親であるタフまるを発売したところ、想定以上の人気となりました。18年2月に店頭に並べて、今年8月までに累計17万8000台売れている。年間の目標台数は3万台だったので、その数字を大きく上回ることができました。ちなみに、昨年度(19年4月~20年3月)は7万台売れたのに対し、今年の4月~8月は5万6000台。つまり、昨年の2倍ペースで売れているんですよね。

 実際、アウトドアでご利用いただいている人が多いようですが、家のベランダで食事をする、いわゆるべランピングの利用も増えてきました。こうした背景を受けて、昨年「アウトドアに特化したコンパクトカセットコンロをつくろう」「手軽に持ち運べるモノがいいのでは」という話になりまして、開発が進みました。

土肥: アウトドアの楽しみ方もいろいろあって、「火は炭で起こさなければいけない」といった人もいますよね。タフまるjr.は、どういった人たちをターゲットにしているのでしょうか?

多田: 高い山を登る人ではなく、本格的なキャンプを楽しむ人でもなく、家でカセットコンロを使っていて、外で食事をするときに持ち出すことに抵抗がない人をターゲットにしました。その昔、キャンプカセットコンロを使っていると「カッコ悪いなあ」といったイメージをもつ人が多かったかもしれません。ただ、利便性はあると思うんですよね。ボンベのガスがなくなると、コンビニで調達できる。ランニングコストも安くて、手軽に火を起こすことができる。こうした背景があって、アウトドアカセットコンロを使うことに抵抗を感じる人が減ってきているのではないでしょうか。

バーナーの位置が違う

土肥: タフまるjr.は親のサイズよりも60%ほど小さくしました。開発にあたって、「各部品を60%小さくしただけ」といった話ではないですよね。ただ、パッと見たところ「小さくしただけ」といった印象を受けるのですが、実際のところはどうですか?

多田: ご指摘のとおり、「親の形を小さくして、完成させた」といった話ではありません。風に強い機能やタフな環境でも使うことができる点などは、親の良いところを踏襲しました。ただ、バーナーの部分をよーく見ていただけますか。親のバーナーは真ん中に位置していますが、子は外にズレていますよね。

土肥: あっ、ほんとですね。コンロの遠いところに位置している。

多田: そこがポイントなんですよね。カセットコンロのバーナーは基本的に真ん中にある。中心に設置するほうがデザインもよいですしね。では、なぜ子はズラしたのか。このサイズバーナーを真ん中に設置すると、ボンベの位置が近くなる。そうすると、熱がこもりやすくなるので、爆発などの危険性が高くなってしまうんですよね。

土肥: ひっ。

多田: あっ、ご安心ください。商品には安全装置が付いているので、定められた基準よりもボンベが熱くなれば自動的に火が消える仕組みになっています。ただ、だからといって、頻繁に火が消えるとなると、使い勝手が悪いですよね。アウトドアで使用するとなると、想定外の使い方をする人がいるかもしれません。ということもあって、安全性を考えて、バーナーの位置をズラすことにしました。

土肥: あれ、全体的な形も違いますよね。親の形は正方形ですが、子は長方形です。

多田: 当初、正方形にする案もありましたが、最終的にいまの形になりました。熱の問題を考えれば、バーナーとボンベの距離を開けなければいけません。ということもあって、正方形デザインにしたところ、「見た目がイマイチ」だったんですよね。という背景がありまして、長方形の形に落ち着きました。

●ボンベの売り上げに課題

土肥: タフまるjr.の開発は昨年の夏ごろから始めて、今年の8月に発売を開始しました。その間に新型コロナウイルスの感染が広がりましたが、そのことに不安を感じることはなかったですか? 自粛が広がって、「焼き肉どころではないだろ」といった感じで、カセットコンロが売れなくなるとか。

多田: いえ、そうした不安はありませんでした。アウトドアを楽しむ人が増えてきたこと。そのアウトドアカセットコンロを使う人が増えてきたこと。親のカセットコンロが売れていたこと。また、コロナ禍でも順調に売り上げを伸ばしていること。さらに、これは直観になるのですが、サンプルが完成したときに「このデザインはいい。いける!」と思ったこと。こうした背景がありまして、「順調に売れるのではないか」と思いました。

土肥: イワタニのカセットコンロといえば、「家で鍋をするときに使う」といったイメージが強いのですが、これからはタフまるのようにアウトドア用にもチカラを入れていく予定でしょうか?

多田: 当社はカセットコンロを手掛けて、昨年50周年を迎えました。その間の大半は「カセットコンロ=鍋」のような形でアピールしてきました。ただ、課題もあったんですよね。「鍋=冬に食べる」ということで、ボンベの売り上げに偏りがありました。秋冬になれば売れるのですが、春夏に低迷する。その差はものすごくあったんですよね。この差をどうしたら縮めることができるのか。

 いろいろ考えた結果、付属品として扱っている焼き肉用のプレートに着目しました。カセットコンロを販売するときに、プレートを付ければどうなるのか。そのプレートを使って、夏に焼き肉をしてくれるかもしれない。一度食べると、もう一度使ってくれるかもしれない。このような仮説を立てて、6年ほど前からカセットコンロにプレートを付けて販売することに。すると、どうなったのか。夏にカセットコンロを使う人が増えてきて、ボンベの売り上げが伸びてきました。

土肥: 「アウトドア用のカセットコンロを発売したら、たまたま売れたじゃないか」といった話ではないわけですね。「キャンプ人口が増えた=利用者が増えた」だけでなく、6年ほど前から「夏に焼き肉を楽しんでくださいね」といった取り組みをしたことで、じわじわ広がっていったわけですね。

ターゲットを明確に

土肥: 多田さんの話を聞いていて、タフまるシリーズが売れている背景はよーく理解できたのですが、ここで疑問が一つ。タフまるjr.はコンパクトサイズが受けていると思うのですが、イワタニから同じようなサイズの商品を出していますよね。その名は「プチスリム」。

 タフまるjr.のサイズを見ると、幅28.6×奥行19.25×高さ12.2センチに対し、プチスリムIIは幅27.9×奥行18.5×高さ8.5センチ。ほぼ同じサイズなのに、タフまるjr.は話題になっていて、売れている。一方のプチスリムIIは失礼ながら、あまり話題になっていない。この差は、どこに原因があるのでしょうか。

多田: プチスリムは1998年に発売していて、そのころから「外出先で使ってくださいね」とアピールしてきました。また、一人暮らしの方であったり、家のテーブルが狭かったり、そうした人にこのサイズはピッタリだと思っていました。

 その後、コンビニなどで一人用のおでんうどんなどが増えてきました。スーパーでは鍋セットの横などで置かせていただきました。このほかにも、さまざまな施策を打ってきたものの、なかなか結果がでなかったんですよね。これではいけないということで、何度もモデルチェンジすることに。「アウトドアのニーズはあるだろう」ということで、持ち運びができる設計にしたものの、爆発的なヒットになりませんでした。

 家用としてはなかなか根付かなかったのですが、業務用としては売れました。例えば、居酒屋。鍋料理などを提供されるときに、この商品をご利用いただいています。

土肥: 同じようなサイズの商品が苦戦していたのに、なぜタフまるjr.は受けたのでしょうか?

多田: ターゲットを明確にしたからではないでしょうか。プチスリムは家でも使えて、外でも使えて。一人用でも使えて、家族でも使えて。といった形で、多くの人に使えることを訴求してきましたが、タフまるjr.は違う。ターゲットを明確にしたので、商品を目にしたお客さんは「これは、自分にとって必要だ」「このようなシーンに使おう」といった感じで、イメージしやすかったのではないでしょうか。

土肥: 商品を売る場合、「誰に・何を・どのように」――この3つがポイントになるかと思うのですが、このアイテムは「誰に」の部分で消費者の心をつかんだわけですね。

●海外展開を視野に

土肥: 最後の質問です。タフまるjr.はサイズコンパクトにしたことで、売れている。ということは、「次の商品はさらに小さくする」といった話にはならないですよね。いくらなんでも限界がある。カセットコンロ市場も成熟している感じがしているのですが、今後はどのような取り組みを考えていますか?

多田: 海外展開を考えています。正規に輸出している商品はないので、今後はアジアや米国を中心にカセットコンロの文化を広めることができれなばなあと。アジアでは低価格な商品が流通していまして、構造もそれなりのモノが多いんですよね。安全面などを考えると、「うーん」と感じることがあるので、当社の安全性や機能性の高さをアピールできればと考えています。

 米国は家でカセットコンロを使うことができないんですよね。これは法律で決まっている。じゃあ、どういったときに、現地の人たちは使っているのか。アウトドアなんですよね。この市場はものすごく大きいので、タフまるシリーズなどをアピールできればと。

土肥: 岩谷産業ではなくて、イワタニでもなく、「Iwatani」でチカラを入れていくわけですね。はっ、いまも商品パッケージに「Iwatani」と書かれていますね(汗)。本日はありがとうございました

(終わり)

8月に登場したカセットコンロ「タフまるjr.」


(出典 news.nicovideo.jp)

親よりも60%小さくした「タフまるjr.」は、なぜ2倍ペースで売れているのか

さすがイワタニ、やりますね!!

このシリーズ最高ですね!!





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