満員電車に乗らず、緑の中で仕事ができればどんなにいいだろう……新型コロナウィルスの影響により「働き方」の見直しがなされるいま、この誰しも一度は考えたことのある理想が、企業や自治体の注目を集め実現されてきている。「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた「ワーケーション」だ。
本稿では、いち会社員として毎日の出社が当たり前だったコロナ前から、いま在宅勤務が通常になって半年を経験した筆者が、ワーケーションを体験。これまでの働き方と何が違うのか、メリットデメリットは何なのか、レポートしよう。
○ワーケーションしに那須へGO!
舞台は栃木県那須郡那須町。東京駅から約1時間新幹線に乗り、そこから車を30分ほど走らせた場所にある「TOWAピュアコテージ」が目的地の宿だ。
一般的に知られる那須地区は、大田原市・那須塩原市・那須町の3つで構成されており、人口は21万人。那須・板室・塩原の温泉郷だけでなく、日光国立や那須高原などの自然の観光資源に恵まれ、御用邸もある由緒正しきエリアとなっている。
目的地に向かう道中、車の窓から外に広がる田んぼや森林をぼーっと眺める。実は筆者は昔よく仕事でこの地を訪れていたのだが、その時からこの街の景色が好きだった。時々現れるこじゃれたカフェや古民家風のごはん屋さんも気を張らずちょうどいい雰囲気。そんな以前と変わらぬのどかな街並みに懐かしさを感じつつ車は山奥へ入ってく。
藤和那須リゾートが運営する「TOWAピュアコテージ」は、コテージタイプ(全72施設・広さ82平米)やプライベート空間が満喫できる別荘タイプの「リゾートハウス」、アウトドア体験を気軽にできる「グランピング」等、多種多様な客室を有する。
主に一般客向けの宿泊施設として提供していたが、今回新たに企業のデジタル化をコンサルする「デジタルシフト」と協業し、企業向けのワーケーションプランを展開。新型コロナ禍において「長時間通勤や三蜜を回避し、従業員同士が対面でコミュニケーションが取れる環境を提供したい」という思いからこの取り組みが生まれたそうだ。
デジタルシフト代表取締役会長・鉢嶺登さんは、この取り組みをシリコンバレーになぞらえ「ナスコンバレー」と名付け、「那須をワーケーションの場として利用してもらうことで、人との交流を生み出し、那須から新たなビジネス機会や取り組みが生まれていけば」と語る。
提供されるワーケーションの一般的な宿泊プランは、月2.5万円の「ブロンズプラン」、月10万円の「シルバープラン」、月25万円の「ゴールドプラン」に分けられ、それぞれ同日に利用できるコテージの上限は、1コテージ、5コテージ、15コテージ。
各コテージにはツインベッドが設置されたベッドルームが2部屋あり、利用は日曜日~木曜日の宿泊が対象。金曜日・土曜日などその他特定除外日は、必要に応じて正規料金で利用可能となっている。
鉢嶺さんは、ワーケーションに必要な条件について次の4つを上げる。(1)Wi-Fiなどの設備環境、(2)東京から1時間ほどで行ける手軽さ、(3)リゾート要素がある、(4)まとまった人数の宿泊が可能。
たしかにネットが使えないと仕事にならない。また、もし何かトラブルなどが起こった際、1時間ほどで帰社できるという安心感は上司や部下にとっても大切だ。仮に施設が汚ければ何度も行きたいと思わないし、人数の規模が制限されているようであれば、グループ研修などを行えず、企業としては使いづらい。こういったワーケーションに必要な条件を満たす場所として、選ばれたのが「TOWAピュアコテージ」だ。
では実際に体験してみて、不便なく仕事はできるのだろうか。1泊2日のワーケーションを行ってみた。
○1泊2日のワーケーションを体験
今回は特別にグレードアップした新築コテージに宿泊。森の中ということもあり、滞在するコテージの周りにはサルの群れが。こんなに近くで見ることはめったにないので少しビビる……(笑)
コテージには大きなリビングダイニングと2階に寝室が1つ。ダブルベッドが2台置いてあり、タンスを開けると布団が数セット用意されていた。
リビングダイニングは、木目調の家具や真ん中に暖炉がある、落ち着いた雰囲気。窓は全面ガラス張りで、緑の風景が広がる。外にいたサルのくつろぐ姿も丸見えだ。
さっそく持ってきたPCを開きコテージのWi-Fiに接続。速度は快適。しかしコンセントの場所は限られているので、好きな場所でするには電池との勝負が必要かもしれない。もしくは延長コードや替えのバッテリーがあれば無敵モードになれるだろう。
せっかく栃木に来たのだからと、途中のコンビニで買ったレモン牛乳片手に仕事を進める。音がない……いや、正確にいうと自然の音だけが聞こえる。会社の電話音や、在宅勤務中の外を車が通る音など、人工的な生活音が聞こえないのである。また考えが煮詰まり、ふと顔をあげると飛び込んでくる広大な緑の風景(あとサルも)。
仕事しながら心が浄化されていくような不思議な感覚に。これがとても心地よく、いつもより仕事を捗らせてくれる。そんなこんなで、外が暗くなるまで仕事をし、1日目の業務が終了。
夜ごはんはワーケーションの中でもバケーション感を味わえるBBQ。さすがに山の夜は寒いが、その中であったかい火を囲みいただく肉は格別だ。日ごろオフィスでしか会話をしないメンバーとも、この大自然の力を借りれば、いつもより穏やかなひとときが過ごせ、お互いに新たな一面を知れることだろう。
実際、チームビルディングを目的にここを利用する企業も多いという。いつもとは違う環境で課題に取り組み、多くの時間を共にすることで生まれる責任感や団結力。日本テーマパーク開発では、新卒に1か月間の合宿研修を取り入れたことで、普段の仕事をより円滑に進められ、離職率が大幅に下がったそうだ。
昼間とは違った顔を見せる自然を感じながら、上司や部下、仲間たちと語り合ってほしい。
○2日目に感じた「しあわせ」なひととき
2日目の朝。コテージに朝ごはんが届く。一つひとつ丁寧に味付けされた料理をいただきながら、ばたばたと準備し満員電車に揺られオフィスに駆け込むいつもの朝を思い浮かべる。それがどうだろう、今は木々の隙間から差し込む朝日を浴びながらいただく朝食のひととき。一言で言おう。「しあわせ」だ。
化粧をしなくていいし、服も考えなくていい。もちろん通勤時間を考えて早起きもしなくたっていい。その時間、ゆっくりごはんを食べて朝の散歩に出かけられる。これもワーケーションの醍醐味だろう。
そして2日目も仕事を始める。作業を進めテレカンも実施。相手に居場所を伝え景色を見せると、とても驚かれ、そしてうらやましがられる。少しの背徳感と優越感。既に多くの企業がコロナ禍で柔軟な働き方を受け入れられるようになったので、何かあってもメールや電話で事足りる。
せっかくなので場所を変えて仕事もしてみることに。
昨夜BBQをした広場へ向かい、コーヒー片手に仕事を進める。建物内にいる時とは違いダイレクトに感じる自然の動き。そよ風が髪を揺らし、湖畔に日の光がキラキラと輝く。自然が作り出したこの落ち着いた空間で、何不自由なく仕事は終了。東京へ帰る時間に。
1泊2日の期間、こなした仕事の量はいつもと変わらない。しかし、遮るものはがないため仕事が捗り、実働時間は短縮された。そのためか慣れない土地でも疲労が少ない。また、今回は一人でワーケーションを実施したが、社内のメンバーと行えば、ついついだらける時間も抑止しあえ、朝や夜の時間を親睦を深める有意義なものにできるだろう。
○ワーケーションを上手に使い、これからの時代にあった働き方へ
最近は"コロナ鬱"という言葉もよく聞かれるが、自宅仕事は人と接する機会を減らすだけでなく、オンとオフの境をあいまいにし、知らず知らずのうちにストレスをため込んでしまう。しかし、ワーケーションでは目の前に広がる自然が疲れを癒し、近くに観光スポットなどもあるため、リフレッシュもしやすいのだ。
実際、今回滞在した那須では、猿がすぐそばで見れるほど自然豊かで、少し車を走らせると展望台や地元の食材を使ったおいしいレストランなどもある。また週末を利用して、那須ハイランドパークやりんどう湖ファミリー牧場といったレジャーも手軽に楽しめるのが特長だ。
デジタルシフト社員・成田敬祐さんは、ワーケーションで2週間滞在したそうだが、かかった費用について、「車など移動手段があれば、スーパーなどが近くにあるので食費なども自炊すれば自宅と変わらない」と教えてくれた。
「会社に行くのは密になり怖い」「テレワークはもう飽きた」といった声が聞かれるいま。企業と社員の「コロナ対策」「仕事の効率化」「働き方の多様化」など、それぞれの思いや課題への解決策として、ワーケーションは有効な選択肢のひとつと言える。この先、大自然の中でリラックスしながら仕事をする日常が、当たり前になる日も近いかもしれない。
(ジャスミン茉莉子)
(出典 news.nicovideo.jp)
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